パイシーズ (深海探査艇)
パイシーズ | |
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基本情報 | |
船種 | 深海潜水艇 |
所有者 | NOAA |
運用者 | ハワイ海底研究所(Hawaiʻi Undersea Research Laboratory ,HURL) |
建造所 | Hyco国際流体力学 |
経歴 | |
竣工 | 1970年代初頭 |
要目 | |
排水量 | 13,000kg |
長さ | 6.10 m |
幅 | 3.20 m |
高さ | 3.35 m |
推進器 |
推進器 (両舷設置、最大90度) 鉛蓄電池 2基(120 VDC 容量330Ah、12-24 VDC 容量220Ah) |
速力 | 2.0 ノット |
航続距離 | 7-10時間運用 |
航海日数 | 3人で140時間生命維持 |
潜航深度 | 2000 m |
乗組員 | 3人 |
積載能力 | 600ポンド |
その他 |
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パイシーズ(PISCES:うお座の意)は研究用深海潜水艇である。カナダのバンクーバに置かれているHyco国際流体力学において設計製造され、最大深度は2,000m、乗員数は3名である。この潜水艇は複数の窓を持ち、試料の採取、環境の調査、装置の設置など各種水中作業が行える。耐圧殻はHY-100鋼製、内径7 ft (2.1 m)で、前部に直径6 in (15 cm)の視察窓を3箇所設けている。アラン・トライス(Alan Trice)によって設計されたパイシーズシリーズは、1960年代末に建造された初期の有人潜水艇を代表した潜水艇であり、海洋開発や海洋探査の主力を担った。パイシーズIIは最初に生産された形式で、1968年に設計が完了した。9機のパイシーズ潜水艇が1970年代末までに製造された。
パイシーズIVとV
[編集]パイシーズIVとパイシーズVはハワイを拠点とし、アメリカ海洋大気庁で研究に用いられている。支援母船のカイミカイ=オ=カナロア(R/V Kaʻimikai-o-Kanaloa)は、パイシーズVとパイシーズIVを搭載し、Aフレームホイストを用いて潜水艇を後部デッキから海中へと送り出す[2]。
1971年、パイシーズIVはソビエト連邦が使用するため建造された。しかし、アメリカから旧ソ連圏へと、軍事転用可能な技術が流出するのを防ぐため、アメリカ商務省は国際武器取引規則(ITAR)を設定した。本潜水艇はこの規則に抵触したため[3]、カナダ政府は輸出許可の発行を拒否した。ソ連政府のかわりとして、カナダ水産海洋省は本潜水艇を購入した。現在、パイシーズIVとVの両機は国家海中研究計画(NURP)によりハワイ海底研究所で運用されている。1機目が水中で運用されるとき、2機目のパイシーズは非常時に備えて船上で待機している[4]。
パイシーズVの運用
[編集]パイシーズ Vは1973年に建造された深海有人潜水艇である。蓄電池から供給される電力を動力源とし、2,000m(6,280 ft)まで潜水可能である。本機は主としてハワイ諸島周辺の海域で使用される。またハワイ本島周辺の深海科学調査と同様、ハワイ島南東沖のロイヒ海山周辺にある熱水フィールドの調査にも使用される[5]。通常、この潜水艇はビデオカメラや他の機材を搭載した状態に整備され、日中、母船から発進する。潜水艇には2本のアームが装備されており、研究対象をつかむ事ができる。アームには温度計が装備され、生物や地質学の資料をつかんで採取箱へ収納でき、潜水艇の機動に困難を伴う場所であっても潜航を補助する。パイシーズ Vの乗員は3名であり、通常の潜水時間は最大10時間である。しかし、緊急時には生命維持装置が140時間まで乗員の生存を維持する[5][6]。
ハワイ海底研究所(英語: Hawaiʻi Undersea Research Laboratory ,HURL)はこれらパイシーズ Vとパイシーズ IVの2機の潜水艇を所有している[6]。 2機の保有は緊急時の対応に利点が有る。どちらか一方の潜水艇が潜水する際にはもう一方が船上で待機し、問題があった時にすぐに救助に向かう事ができる。このような非常事態には、魚網に絡まったり、海底の岩礁や廃棄物に挟まる事が含まれる。こうした事例において待機中の2機目が救助に向かう。同様に研究探査においても2機の使用は好ましいことである[5]。
2002年8月、パイシーズ Vと姉妹船のパイシーズ IVは、真珠湾の外で沈んでいた日本の特殊潜航艇、甲標的を発見した。発見から時間を遡ること61年、第二次世界大戦において、この特殊潜航艇はアメリカ合衆国海軍所属ウィックス級駆逐艦・ワード号が行った初めての発砲により沈められた。この事件は現代では「ワード号事件」として知られている。甲標的は真珠湾攻撃の開始前に、4インチ50口径砲の弾丸と爆雷が命中して沈没した。潜水艦は真珠湾の入り口から約5マイルの水深400mで見つかった[7][8]。これは"大西洋でのタイタニック号の発見に次ぐ、太平洋で最も重要な、近代的な海洋考古学の発見"と評された[7]。2003年、パイシーズ Vは1年前に発見した真珠湾の日本の小型潜水艦を訪れた。アメリカ合衆国国務省は小型潜水艦の扱いに関し、日本側の要望を決める為に日本の外務省と連携した[9]。
パイシーズ潜水艇はまた、HURLによって教材としても使用された。2008年、2名のTampa Bay Chapterの潜水士がHURLを訪れ、日本の潜水艦の史跡を訪ねた。一人の潜水士はパイシーズ Vに足をかけて"まるで自分がスペースシャトルの準備をするように感じた"と発言した[10]。ハワイのヒロにあるモクパパパ調査センターには、パイシーズ Vの制御盤の模型が公開されている[11]。
2009年3月5日、科学者達は7つの竹珊瑚を発見した。その中の6種は新種であり、さらに幅広い属を発見した可能性がある。こうした新種のサンゴは、通常の潜水では到達できない深海で生息していた。そのような深度で発見できたのは、パイシーズ Vがそこまで到達でき得たからであった[12][13]。また彼らは同様に、およそ3フィートの高さと3フィートの幅を持つ大型の海綿を発見した。この海綿の科学名は"cauldron sponge"である[14]。
パイシーズVIIとIX
[編集]パイシーズVIIとパイシーズIXは1975年に建造され、約10年間にわたって運用された。これはソビエト科学アカデミーによってシルショフ海洋研究所(ИОРАН「イオラーン」)でミールが就役するまで続けられた[15] [16]。アカデミク・クルチャトフ, 調査船ドミトリー・メンデレーエフと アカデミク・ムスティスラフ・ケルディッシュが支援船として用いられた[17]。
建造
[編集]潜水艇 | 完成 | 深度(ft) | 乗員 |
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パイシーズ I | 1965年 | 1,200 | 2 |
パイシーズ II | 1968年 | 2,600 | 3 |
パイシーズ III | 1969年 | 3,600 | 3 |
パイシーズ IV | 1971年 | 6500 | 3 |
パイシーズ IV | 1971年 | 6,500 | 3 |
パイシーズ V | 1973年 | 6,500 | 3 |
パイシーズ VI-XI | 1975年 | 6,500 | 3 |
パイシーズ潜水艇の現在
[編集]- 現在、パイシーズIIはカナダのバンクーバに置かれている海洋博物館の深海コーナーで展示されている。
- パイシーズIVとVは更新を受け、ハワイ海底研究所(HURL)にて運用されている。この機関はハワイ大学マノア校の、海洋地球科学技術学部(SOEST)にあるNOAA内に置かれた組織である。
- ロシアが所有するパイシーズVIIとXIの内、1台はカリーニングラードの海洋博物館で展示され、もう一方はミール潜水艇の予備部品を供給するため保管されている。[16]
脚注
[編集]- ^ John R. Smith, Science Director (pdf), HURL Science User’s Guide:2009 field season, NOAA, Hawaii Undersea Research Laboratory
- ^ Gidi Raanan, Pisces-family of submersibles
- ^ “International Traffic in Arms Regulations 2011, ITAR Part 121 – The United States Munitions List, §121.15 Vessels of war and spcial narval equipment. (d) Non-Combatant Support, Service and Miscellaneous Vessels” (PDF). U.S. Department of state. 2012年4月26日閲覧。
- ^ Hawaii Undersea Research Laboratory, Pisces V Specifications, オリジナルの2008年4月9日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b c Shackelford, Rachel. “NOAA Ocean Explorer: Pisces IV and V”. oceanexplorer.noaa.gov. 2009年5月8日閲覧。
- ^ a b “HURL Pisces V Specifications”. www.soest.hawaii.edu. 2009年5月8日閲覧。
- ^ a b “Japanese Midget Submarine”. www.soest.hawaii.edu. 2008年9月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月13日閲覧。
- ^ “アーカイブされたコピー”. 2008年7月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年5月13日閲覧。
- ^ Altoon, Helen (August 24, 2003). “Exploring the Deep: UH researchers who found a mini-sub will dive around the northwest islands”. Honolulu Star-Bulletin. 2009年5月8日閲覧。
- ^ Christine Patrick, Fred Gorell. “NOAA Supports Young Explorers in Seafloor to Mountaintop to Outer Space Challenge”. www.oar.noaa.gov. 2009年5月8日閲覧。
- ^ “Mokupāpapa: Discovery Center”. Northwestern Hawaiian Islands Coral Reef Ecosystem Reserve. 2009年9月13日閲覧。
- ^ Christine Patrick, Keeley Belva. “New Deep-Sea Coral Discovered on NOAA-Supported Mission - insciences”. insciences.org. 2009年5月8日閲覧。
- ^ “Seven New Species Of Deep-sea Coral Discovered”. www.sciencedaily.com (March 6, 2009). 2009年5月8日閲覧。
- ^ “National Oceanic and Atmospheric Administration - New Deep-Sea Coral Discovered on NOAA-Supported Mission”. www.noaanews.noaa.gov (March 5, 2009). 2009年5月11日閲覧。
- ^ Deep Submersible Vehicles in Service or Available Worldwide
- ^ a b Интервью И.Е.Михальцева Новой газете (I.E. Mikhaltsev's interview with Novaya Gazeta). Published in Novaya Gazeta, No. (1265) 27-29 Aug 2007
- ^ Подводный обитаемый аппарат «Пайсис» («Pisces»)
関連書籍
[編集]- “Images from Ring of Fire cruise - Pisces V submersible”. www.gns.cri.nz. 2010年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年5月8日閲覧。
- Embley, R. W.; de Ronde, C. E.; Massoth, Massoth, G. J., et al. “NASA ADS: Hydrothermal Systems on Kermadec Arc Volcanoes Revealed by PISCES V Submersible Dives”. adsabs.harvard.edu. 2009年5月8日閲覧。
- Jones, Anthony T.. “ScienceDirect - Sedimentary Geology : Geochronology of drowned Hawaiian coral reefs”. www.sciencedirect.com. 2009年5月8日閲覧。
外部リンク
[編集]- “PISCES - Hawaii's submarine to explore the deep ocean! by AmakuaVideo -- Revver Online Video Sharing Network”. revver.com. 2009年5月8日閲覧。
- Painting by Terry Kerby, HURL's operational director and chief sub pilot (2003年12月20日). “Japanese Midget Submarine”. www.soest.hawaii.edu. 2008年9月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年5月8日閲覧。